行方ひさこのLOST AND FOUNDなキッチン 鳥羽周作シェフ編

時代を明るくリードしてくれる、様々な分野にまつわるプロフェッショナルたち。そんなプロたちが選んだLOST AND FOUNDのアイテムと共にお送りする「行方ひさこのLOST ANDFOUNDなキッチン」。仕事、プライベート共にたくさんのものを見て、真摯に向き合ってきた彼らだからこその、なにかを選択する時の視点やこだわり、ものと向き合う姿勢などを掘り下げていきます。

鳥羽周作

J リーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。2018年「sio」をオープン。同店はミシュランガイド東京 2020 から 4 年連続一つ星を獲得。現在、全国にいろいろな業態の8店舗を展開。モットーは『幸せの分母を増やす』。

今回は、ミシュランガイド東京で2020年から3年連続一つ星を獲得している代々木上原「sio」や、“架空のホテルのレストラン”をコンセプトにした青山「Hotel’s」など、日本各地で8店舗を展開する鳥羽周作シェフをゲストにお迎えしました。REMASTEREDに合う料理を作っていただきました。

幸せを増やす、という目的のための手段

鳥羽シェフ:早速なんですけれど、作りながらいきますよ!

根セロリとじゃがいものピューレを使ったタネでラビオリを作って、蛤のバターソースで和えます。1つはアンチョビを乗せるだけ。もう1つはスライスして丸型に抜いたカブを、毛蟹とりんごジャムとエシャロットのファルスで包んで、ラビオリの上に重ねて、最後にハーブを飾ろうかと。

今回選んだ皿は、sioだったら半熟ゆで卵にアンチョビを乗せて出すのに使いたい皿なんですけど、それを前衛的な皿にしたくて。

改めてこういう皿が見直されてる気がしてるんですよね。昔のパタゴニアがかっこいい!みたいな感じがあるじゃないですか。新しいブランドを合わせてコーディネートする感じ。そんな感じでいいですか?

行方:おぉ、早速ですね。もちろんです!

鳥羽シェフ:料理下手だからなー!

行方:いやいや。

鳥羽シェフ:技術ない系だから。

行方:またまたー。あ、そうだ!ミシュラン1つ星おめでとうございます。

鳥羽シェフ:ありがとうございます。いつも言ってることですけれど、大事なのは目的と手段だと思うんですよね。僕にとって、料理は手段!人を喜ばせるという目的の手段であって、料理をすることが目的ではないので、ミシュランを取りたい!っていう目的で仕事はしていないんです。ミシュランの星をいただくことは嬉しいですけれど、そこまで興味はないんです。

ものを生み出すことは、編集すること

今から作る皿(料理)は、お話をいただいた時に2分で思いついたんです。適当なわけではなく、いつもそうなんです。クリエイティブって生み出すんじゃなくて、編集することだと思うんですよ。

行方:そうですね、私もそう思います。

鳥羽シェフ:あるものをどういうふうにチューニングして作り上げるかだと思うので、生み出すって感覚ではないんです。なので、悩むって感覚もない。お店のコース料理は全部自分で考えているんですけれど、入浴中にNETFLIXを見ながら考えたりしています。むしろ、そういう方がいいんですよね。

全て構成要素を因数分解して、その因数分解したものの羅列の変数を加味した上での編集作業だと思ってるんですよ。

1つのお皿(料理)を作りたいと思ったら構成要素を全て挙げて、そのパワーバランスをどう編集していくかを考えていくので、作る前からフォーマットが決まっていて、あとはパズルをはめ込んでいく感覚。ビジネスもそういう感覚でやっています。クライアントが何を求めているかをまず1番に考える。そこから大事な要素を全て挙げて、そこにはめ込んでいく。僕はアホなんですけど、実はとっても細かいんです(笑)。

料理に関しては手段なので、お客さまをどんな風に導きたいかを逆算で考えることが多い。だから、作りたい料理ってないんですよ。

行方:その時々の相手によって何が最適解か考えて、手段を変えていくってことですね。

鳥羽シェフ:お客様が何を望んでいるのかによってゴール設定を変えていきます。

今回の場合はNIKKOのお皿なので、シンプルで馴染みのある目玉焼きが乗った貧乏人パスタのようなものを丸皿にサラッと盛り付けてもいいんですけど、それって既に誰かがやったことがあるし、この取材でわざわざ僕がやることではない。あえてラビオリ2種の前菜を小さめなオーバルに盛り付けて、かっこよく見えたらいいなって。自分なりに今回いただいたオファーの趣旨を理解して考えたんですけど、どうでした?でもメニュー自体は2分で考えました(笑)。

※貧乏人パスタは、イタリアでは「スパゲッティ・ポヴェレッロ」と呼ばれている実在するメニュー。半熟目玉焼きを乗せたり麺と絡めたりした上にチーズをかけただけ、というシンプルなレシピながらも食材がない時にも美味しいものを食べたいというイタリアらしさが溢れるパスタ。

ガイドラインのあるお皿

行方:ありがとうございます。今回、このお皿を選んでいただいたのはなぜですか?

鳥羽シェフ:お皿の余白が大きくなる圧迫感があまり好きじゃないんですよ。

行方:余白の圧迫感!

鳥羽シェフ:そう。大きい器にちょっとだけ盛り付けて余白が大きいと圧迫感を感じるんですよね。「レストランに来たぞ!」っていうギラギラした感じが出ちゃう。自分の店の皿も全て1.5センチ小さくしたくらい、そこは気をつけています。

行方:確かに!圧迫感ってレストランにはない方が良いものですよね。

鳥羽シェフ:ミニマルでセンスを出すのが、僕の今の気分!これから白いお皿がくると思うんですよ。今回は、敢えてオーバルで皿の中に違和感を作りたくて、絶対に他の人が選ばないような皿を自分のセンスでやりたいなと思ったので、この皿を選びました。だって、難しい皿だもん!

行方:挑戦していただいて嬉しいです!

鳥羽シェフ:とはいえ、リム皿というのはお皿自体にストライクゾーンが決まっていてボールを投げやすいってことなんです。リムがあるものが流行りすぎて一時代を築いたから、みんな新しいものを模索して色々やった結果、本質的にどう盛り付けたら美しく見えるかというガイドラインがあるお皿ってすごく価値があると思います。

それをそれで終わらせないためにアートディレクターの平林さんが入って、現代にふさわしいようにチューニングをしているREMASTEREDっていいな、そういう取り組みをしているNIKKOっていいなって思いました。

パパッと盛り付けたけど、きちんと形になった。だから、そういうことなんだと思います。ナポリタン、ミートソースはもちろん、カルパッチョとかワインバーの料理なんかには、本当に合うと思う。

行方:餃子も!

鳥羽シェフ:そうですね。この皿のポテンシャルが見えてきましたね。餃子もいけるけど、レストランでもしっかり良い仕事をする皿ってないんじゃないですか。ストライクゾーンがあることで、誰でもカッコよく盛り付けられるお皿ですよね。

「新しい価値を見つけるための旅」=Tabi

行方:スタッフみんなで地方を旅する取り組み「Tabi」もスタートしましたね。

少し前に、御社のレストラン「Hotel’s」で期間限定で提供された「Tabi - 佐賀」のコースをいただいて、佐賀が大好きで最も訪れる県なので、真剣に向き合ってらっしゃる姿勢と佐賀愛を感じられてとても嬉しかったです。「Tabi」はどんな想いではじめられたのですか?

鳥羽シェフ:料理のパーツとしての食材を探しに地域の生産者のところに行く食材探訪ではないんです。そこで出会ったものからインスパイアされて、そこからコースを作っていくという順番です。

生産者さんたちと出会って、関わりが生まれる。これがなによりも意味があることで、大切にしたいことです。瞬間的に話題になることには興味がなくて、継続させることが重要じゃないですか。継続的に関係を築いていくことの中から生まれる新しいことを大切にして行きたい、何か一緒に作り上げていきたい。生産者さんをまわって良い食材を調達するだけでは意味がないので、その先を目指してます。

行方:素晴らしい!これからも楽しみにしています。

鳥羽シェフ:単純な利益構造を変えたいんです。本当の意味でのクリエイティブは、必要に迫られているものと、もう一段階上を目指すものだと、ちょっと違うものだと思うんですよね。

クリエイティブに原価はない

行方:「Tabi - 佐賀」の時に料理にまつわる人たちの働き方を変えていきたいってお話しをしてくださって、本当にその通りだなと思っていました。

鳥羽シェフ:抜本的な改革をしていかないと無理ですよね。自分自身に余裕がない人は、なかなか人のことが考えられないなって気付きました。緊急事態宣言あたりから気持ち的に余裕ができて、そこから色々と考えられるようになりました。その心境の変化は大きかった!人のことを考えられるようになってきました。

ミシュランをとる前は、やっぱりミシュランを取りたい、世の中に自分の存在価値を知らしめたいっていう気持ちばかりが先走っていたんですが、ミシュランをとったら急にスコンと抜けて。そこから、いろんな食を美味しくしよう!という想いが湧き上がってきて、解像度がどんどん上がっていきました。良い行いをしたいというわけではないんですけれど、自分の母校の特別支援学級の子供たちと料理教室をしたりするのが楽しいんです。

行方:もっと幅広く、新しいことにも目を向けられているんですね。

鳥羽シェフ:今、自分の会社の他に居酒屋のチェーン店を運営している外食産業の取締役をやっています。考えることはミシュランだろうが居酒屋だろうが同じことだと思っているんです。「客単価が低いから良い食材は使えないし、ユニフォームにお金をかけられない」「居酒屋だからこんなもんでいい!」っていう考えを減らしていきたいんです。

なぜなら、クリエイティブは原価がかからないから。そういうイズムを外食産業に持ち込むっていうことを、今一生懸命やっています。

だから、コンビニやファミリーレストランなんかでもメニュー監修をしているし、マスプロダクトをどんどんやっていきます。ミシュランシェフでそういう取り組みをしてる人って少ないですけどね。カッコ悪いとかお金のためにとかいう人もいるけれど、僕はそれらを全て手段だと思っています。手段がたくさんあると、できることが広がるから。

行方:マスに影響力があるシェフは本当に希少!だから、外野の声は気にせず世の中に幸せを増やす手段としてどんどん突き進んでほしいです。

鳥羽シェフ:「全ての人に美味しいものを届ける」というクリエイティブを自己表現として使っているのではなく、手段として使っている。僕にとって、クリエイティブは目的のための手段でしかないんです。クリエイティブが目的になると、自己満足になっちゃうじゃないですか。それはアーティストの話だから、僕らはクリエイティブを手段にする会社で、目的は人を幸せにすること。立ち位置がはっきりしてると自負しています。クリエイティブがクライアントワークという現実的な人間です(笑)。

今回作っていただいたラビオリの前菜は、塩味と甘みのバランスや、上に乗ったハーブの酸味と苦味がピリッと効いた複雑味のあるもの。「自分と作るものにギャップがある」と言う鳥羽シェフの作る2種はどちらも美しく繊細で、リム皿との相性も余白の取り方も抜群!そして、もちろんとても美味しい!「苦味」のコントロールが得意で、もう1口食べたい!となるように味の設計をしているという言葉通り、前菜と言わずメインでたくさんいただきたいラビオリでした。

みんなが幸せになれる飲食業態のあり方を社会に提案すべく、革新的なアイディアと行動力でどんどん変革を進めていく鳥羽シェフ。調理をしながら、湧き出てくる熱い想いは止まることを知りません。飲食業界の常識にとらわれずに、自分達が正しいと思った手段で新たなスタイルを提案し、「幸せの分母を増やす」挑戦を続けているシェフのこれからが、とても楽しみです。

<記事内紹介商品>
REMASTERED オーバルプレート 21
¥2,860

行方ひさこ@hisakonamekata
ブランディング ディレクター
アパレル会社の経営、ファッションやライフスタイルブランドのディレクション経験を活かし、食や工芸、地域創生などローカルに通じる幅広い分野で活動中。コンセプトワークや商品開発を通じ、トータルでブランドの価値を創り上げている。

Interview&text Hisako Namekata
Photo by Naoki Yamashita

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